話は変わり、今週の月曜日に行ったオーネット・コールマンの来日コンサートについて。
 会場の渋谷にあるオーチャードホールの座席はおそらくほぼ満席。
 コンサート後半ではオーネットの演奏にも参加した山下洋輔のソロピアノ前座のあと、登場したオーネットのカルテット。
 中央の御大を挟んでウッベが二人、そして後方にオーネット息子のドラム。変則的なスタイル。どんなのやるんだろう?と不安がまじった気持ちで眺めていたが、最初の音が出てきた瞬間、ほんとに笑ってしまった。ドッタンバッタン、ガッションガッシャンという性急なリズムに乗っかり、奇妙にでかく不細工で不恰好だが、妙に耳の奥まで残ってしまうというオーネットのサックスが力強く飛び出してきたのだ。キャリアや年輪(当年76歳!)にともなう深みや味わいといったものがいっさいなく、昔とほとんど変わらないオーネットの音がそこにあるという光景。これはたしかに非日常的なインパクトがある。
 しかし正直言えば、聴いているうちになにか釈然としない感が頭のなかに湧き出てきたのも事実。シンプルにオーネット最高!とはどうも素直に喜べない。
 単調になりかねない音楽を飽きさせなかったのは、もちろんオーネットの終始異物な雰囲気を漂わせるサックスのその存在感だということは間違いない。それを生で聴くことができただけでもジャズファンとしては幸いだったのかもしれない。しかし、基本的によくも悪くも語るべきことはないライヴだと思った。なにか根本的なズレがあるというか、ここでのオーネットについて考えることが、いまジャズについて考えることと結びつかないというか。
 そのズレがむず痒いまま残ったまま渋谷から帰りの電車に乗った。車内で聴いたipodでは「Body Meta」をかける。30年前の作品だが、そこではさきほどのオーチャードホールでのものと音としてはほとんど変わらないオーネットのサックスが、しかしなぜか何倍も刺激的に鳴り響いていた。僕はそれを複雑な気持ちで聴いていた。