そんなことを考えながら、この前の日記の続き。本田竹広・追悼コンサートについて。
 板橋文夫「ヘイ・ジュード」の歴史的名演の後、ステージに登場したのが、大口純一郎(p)・鈴木勲(b)・村上寛(ds)・橋本信二(g)というメンバーのカルテット。スタンダード中心の選曲。ギターの橋本は、本田さんの最後のバンドメンバーだとのこと。鈴木勲のベースソロのキレのよさがものすごくかっこよくて驚く。途中からボーカルで加わった東郷輝久が、次のグループの紹介をする。
 峰厚介(ts)・五十嵐一生(tp)というフロントに、リズムセクション鈴木良雄(b)・村上寛(ds)、そして再び登場の板橋文夫(p)というクインテット。全て本田さんの曲を演奏した。メンバー的には、力技全開の音が来るかなと思ったが、思いのほかメロディが強調された楽曲。最後の「ラムー」という曲での峰と板橋の演奏が突き抜けていた。
 第一部最後となった演奏は、ネイティヴ・サン。ピアノ&エレピは吉澤はじめ
 フュージョン色の強いスタイルははっきり言うとそれほど好みではないのだが、本田珠也のドラムと今村祐司のパーカッションがノッペリした雰囲気を排除して、生きたドライヴ感をつくりだしていた。
 それにしても本田珠也のセンスと力量はずば抜けていて、15分ほどの休憩の後始まった第2部でのピアノの山下洋輔とのデュオ(宮古高校校歌)でも、そのドラミングにかなり見とれてしまった。ドラムが歌っている。美しい。
 そして、最後に登場した渡辺貞夫(as)。正直それほど期待していなかったが、それは全く甘かった。70代中盤なのにこの人、かなりファンキー。なんだかステージ上でのオーラからして他の人と違う。山下も峰も霞むぐらい。いかにも大御所然とした振る舞いとはかけ離れた、フラフラと軽い足取りでステージ上を動き回り、終始笑顔っていう佇まいも、ある意味凄みがある。バップや、自作のアフリカ的楽曲で朗々と歌うサックスも、全く悪くないと僕は思った。70年代以降の日本のジャズが持っている屈折した感覚が、ナベサダにはあまりない。先週観た秋吉敏子もそうだったけど、存在そのものがジャズといった大きさがある。
 アンコールでナベサダが独奏したケニア民謡「マライカ」は素晴らしく、ジーンときてしまった。
 本田竹広という音楽家の歩みを辿ることが同時に、60年代後半からの日本のジャズの大きな流れを俯瞰する内容になったとも言える今回のコンサート。やはり同時期に勃興した日本の土着的フリージャズともまた違う、アメリカ黒人音楽・ポピュラー音楽のシーンとリンクしながら独自に個性的に発展していった力強い日本のジャズの歴史をこの日はっきり見たような気がした。この人たちのやってきたことを無視して、ジャズを語ることはできない。
 個人的には、70年前後の国立音大ジャズ人脈という部分をもっと追ってみたくなったりもした。
 本当に心のこもった、本当に感動的なコンサートだった。