19時過ぎ、ジャズライヴハウス・赤いカラスへ。板橋文夫カルテットの演奏を聴くため。メンバーは、板橋(p)・林栄一(as)・井野信義(b)・本田珠也(ds)。
 メンツから言ってもこれは絶対凄い演奏になるだろうなあと予想していたが、やはりその通りだった。ライヴ行って絶句してしまう経験っていうのも久しぶり。ほんと言葉が出ない、圧倒されるだけ。
 ファーストセット中盤で演奏された、板橋ファンにはお馴染み「アリゲーター・ダンス」。70年代ブラック・ジャズのような力強く前へ進むグルーヴを基本にしながらも、溢れでてくるものは日本っぽい。板橋さんに関してはそこで好き嫌いが分かれるのかもしれないが、自分は好みど真ん中。林→板橋→井野→本田と展開されるソロは、ギミックなしのゴツゴツした裸の力較べといった様相。この男臭さ、すんません、俺は大好きです。
 感動的と表現してしまっても決して大げさじゃないほど、素晴らしく盛り上がったのがセカンドセットでの「マーシーマーシーマーシー」。言うまでもなく、キャノンボールの有名ファンキージャズ。この曲を演奏する前に、先日亡くなった本田竹広さん(珠也氏の父でもある)のことを板橋さんは語った。自分がジャズを始めるきっかけは国立音大の先輩である本田さんの演奏に触れたからでぇ、と、しんみりと話す。「マーシー〜」はそのときよく演ってた思い出の曲だとのこと。
 あのコテコテのリフを林栄一のアルトが鋭く独創的なフレーズに変え、煽る。板橋もこれ以上ないぐらい、鍵盤を叩き倒す。ウッベを大きく左右に揺らしながらズシズシと弦をはじく井野、そして、ばかでかい音と繊細に連なるうねりを聴いてるだけで頭がもう空っぽになる本田珠也のドラム!4人のアンサンブルが重厚にそしてものすごい熱を持って、グルーヴをつくっていく。客席からは「ウォー!」「イエィ!」の野太い歓声。うわぁ、なんだこの空間。最高だ。盟友の追悼という、ともすれば湿っぽくなりそうなシチュエーションを、板橋さんは板橋さんらしいやり方で、音楽として昇華させた。
 ラストの「サバンナ」の後、アンコールを求める客席からの拍手に4人はついに応えることはなかった。というか、もう応えられる体力が残ってなさそうなことは傍目からもよく分かった。それぐらい燃焼しきった演奏。ほんとにすごいおっさんたちだ。