明田川さんのノートラ出演はたしか8月以来かな?前回は片山広明とのコッテリ・デュオだったが、今回の組み合わせは、明田川荘之(key)・渡辺隆雄(tp)・松本健一(ts)。アケタ・オーケストラの3人編成バージョンだ。曲目は、以下。

【1セット】
①てつ②アルブ③オーヨー百沢④スモール・パピオン
【2セット】
⑤クルエルデイズ・オブ・ライフ⑥アケタズ・ブルース⑦ラウンド・ミッドナイト(ピアノソロ)⑧サムライ・ニッポン・ブルース⑨エアジン・ラプソディー
【アンコール?】
⑩ヘルニア・ブルース

 アケタさんってとにかく名曲揃いで、こうやって曲名書いてるだけでもメロディーが浮かんでくるものが多い。おなじみ⑨エアジン・ラプソディーなんてほんとに泣けるよ。僕の場合、夜に酒飲みながら浸るには、エヴァンスや北欧ピアノトリオではまったく物足りない。アケタさんぐらいの濃い世界がそこにあることで、自分の不毛な日常は一瞬でも救われるのだ。
 さて演奏だが、まず、①の松本さんのテナーでがっちり掴まれてしまった。田島貴男との仕事でも有名だが、ジャズにおいては独自な尖がったフリー系の色も松本さんは見せる。しかしアケタ・オーケストラでの彼のベクトルはオリラブともフリーともまた違う。いいバランスでど真ん中のリアル・ジャズを体現している。ヴィブラート抑え目で締まったトーン・そしてそこから生まれる泥臭さはブッカー・アーヴィン直系だし、ブロウにおける初期衝動性はエリック・ドルフィー直系。特に、個人的に大好きな曲④での松本さんの超アッパーなブロウはいつ聴いても圧巻だ。
 今年の1月にここノートランクスでリーダーバンドを聴いたときは、ブラジルものなんかも演奏していた渡辺さん。音楽的な幅の広さにへえ!と思ったものだが、今日のライヴでの彼のトランペットの表現力には正直そのとき以上にハッとさせられた。最近のアケタ作品でも突出した傑作、美メロでドラマチックな⑤「クルエルデイズ〜」。ここでの渡辺さんのセンシティブ全開のソロは、この日のライヴで僕にとっての最大のハイライト。
 全体的にこの日は、いつもより叙情系の選曲だったような気がする。アケタの店で演奏するようなアコースティック・ピアノとはまた違うキーボードのモワーンとした音の響きは、どことなく場末の温泉街的雰囲気を醸し出していて、それがアケタさんの世界観に非常にうまく合っていた。
 ただ、自身もなにかに書いていたが、アケタさんは、イン・コード、イン・テンポを基本とする実はオーソドックスな音楽性のピアニスト。だから傍目にイロモノっぽくても、しっかり聴いているとモダン・ジャズの系譜としてこちらの耳は反応する。そのジャズの本流と日本人の叙情がうまく混じりあったとき、もうなんとも言えず胸が高まるのだ。亡くなった高田渡さんのことに触れた後に演奏された③なんてまさにそんなアケタ・ワールド。せつない!
 そしてもうひとつのアケタ・ワールド、変態で馬鹿馬鹿しくて笑えて、しかしなんだか妙に元気が出てしまう楽曲。その真骨頂が、タイトルからも分かるが、ラスト⑩だ。「40過ぎたら、ヘルニア〜♪」モンクっぽいブギを弾いてそんなことを歌いながら、腰を痛そうに押さえるアクション。曲はだんだんとフリーっぽいドシャメシャになって行く。拳や肘打ちは当たり前として、尻で鍵盤を叩いたり、キーボードを抱え前に倒そうとしたりと、明田川さんもうすごいです。  
 ポスト・ジャズのなんたらかんたらとかに雰囲気でノセられてるのも別に勝手だし、スウィング・ジャーナルのゴールドディスクを律儀に買うのも別に勝手。好みの問題だし。だけどこういう真摯なジャズも一回は聴いておいた方がいいと思う。