予定外に早く仕事を切り上げることができて、よっしゃあと駅まで走る。この日の仕事は府中だったので、京王線→中央線と乗り継ぎ、高円寺に20時ちょっと前に到着。ライヴハウス・ジロキチでは酒井泰三「3355」のステージが既に始まっていた。
バンド・オブ・ジプシーズ・ミーツ・テクノ」という新たなコンセプトを掲げてのニュータイプ「3355」、この日はヴァイオリンの太田恵資を加えてのクインテットだ。
1ステージは45分近くぶっ続けでのジャム、もう1曲も15分以上。先月のジロキチでも感じたことだが、ミニマルで重いサウンドになったなあというのが僕の第一印象。
前バージョン「3355」の特徴としては、①DJ高田さんのネタにインプロ的にバンドが乗っかることでつくる混沌とした雰囲気。②イン・テンポでバウンシーなビートを軸に各自がソロを取って、その後に合流してのワッショイワッショイ状態。乱暴だが、大きく分けて以上の2点が挙げられると思う。
ニューバージョン「3355」について言うと、上記①のフリーインプロの混沌ムードは希薄になった。言い方を変えれば、サウンドの骨格についてのコンセプトが明確になった。それは泰三氏がこの日のMCで喋っていた「このユニットでは、ノリのことだけしか考えてないですねぇ」という一言で十分表現されていると思うのだが、「全てはグルーヴのため」、「グルーヴへの奉仕」という姿勢がはっきりとそこに見える。
「グルーヴ?それだったら、前バージョン上記②でもいいんじゃねえの?現に寿町だって、あんだけ盛り上がってたんだしさあ。」もしかしたらそんな意見があるかもしれない。確かにそのとおりで、今これを書きながら聴いている8・12寿町の音源、やっぱりかっこいい。しかしニューバージョンとの違いがあって、それは一言で言えば、音の混じり感の違いだ。
前バージョンの場合は、音域的にもあるいはソロの取り方としても、個々の音がわりとくっきり分かれていた。太田さんのヴァイオリンも、そして泰三さんのギターもビートに乗っかって、語弊があるかもしれないが、自分の得意技を出しやすい環境の音。
じゃあ、ニューバージョンはどうかというと、まず、バンドの音がグシャリッと溶け混じっている(めちゃくちゃ感覚的な言い方だが)。グルーヴを考えるにあたって、このグシャリっていう感覚はけっこう重要で、専門的なことは分からんが、それは音域に関係していることだとおそらく推測できる。で、そのグシャリッというサウンドがポリテンポにミニマルに展開していく、非常に意識的に。主はメロディではなく、リズムだ。ここでは、泰三さんのギターの爆音も太田さんのヴァイオリンも、重なりあっていくリズムから音をグイグイ引っ張り出されている。バカみたいな言い方だが、バンドマジックを感じる。前回も書いたが、70年頃のザ・フーを思い出したのもそこに理由があるのだ。
「3355」、前バージョンもニューバージョンもハードでファンキーでという点では、必ず満足できる音だ。しかし、前者が、カラフルな変化を味わいながら盛り上がって踊るという雰囲気だったのに比べ、後者はストイックにジワジワとしかし太い流れに身を任せる感じ。そんなふうにも言えるかと思う。
この日、2セットめは機材トラブルがあり非常に残念だったが、1セットめでもかなり感触は掴めたのではないだろうか。