職場を出たのが19時10分過ぎ。吉野家でキムチ豚丼を急いで食べ終え、中央線に乗って向かった先は西荻窪アケタの店。この夜はアケタ・オーケストラ。
パーソネル→明田川荘之(p,オカリーナ)渡辺隆雄(tp)宮野裕司(as)松本健一(ts)榎本秀一(ts)石渡明広(g)鈴木克人(b)楠本卓司(ds)。毎回ちょこちょことメンバーが変わるこのビッグコンボ。宮野さん、石渡さん、鈴木さんの音はアケタ・オーケストラ以外でも僕は生で初めて聴く。
メンバーが一人まだ到着していないということで、1曲目はアケタさんのピアノソロ。スタンダード「I’ll Closing My Eyes」。いいっすね、うっとりするメロディで。そのあいだにようやくメンバーが揃い、「サムライ・ニッポン・ブルース」からオーケストラの演奏が始まる。2セット合わせて7曲か8曲のセットリストだったが、曲名覚えているのが、その「サムライ〜」と「アケタズ・グロテスク」「アルプ」「スモール・パピオン」「クルエルデイズ・オブ・ライフ」「エアジン・ラプソディ」。曲順もそんな感じだったと思う。
自身のCDのライナーでアケタさんが「誤解されることがあるのだが、僕は基本的にイン・テンポでコード主体のミュージシャンだ。全編フリージャズは苦手」という主旨のことを書いていたことがあったけど、ここ最近アケタさんのライヴやCDを割と集中して聴いている自分としては、そのへんすごく納得できる。楽曲はすごくユニークなんだが、なんつうか、ツボはあくまでモダンジャズなのだ。
それに関連して言うと、マイルス・デイビスが演奏者としてのすごい資質を捨ててまでも音楽家として「スタイルの変化」を第一義にしていたことについてアケタさんが批判的だという事実はとても重要なポイントなのかもしれない。マイルスにしてみれば、16小節のテーマがあってその後にソロが始まってという形式は「あいつら何年もずっと同じことやっていてよく我慢できるな」という話なんだろうが、アケタの店にはそういうスタイルで長くやってるミュージシャンがいっぱい出ているわけで(笑)。あくまでジャズというジャンルの正論というか王道にこだわった上で、個々のミュージシャンの技量・能力・個性を重視するという路線をアケタの店は30年続けているんだなあと思う。
・・・って、話がちょっとずれた。そう、アケタさんの曲はこういうビッグ・コンボというフォーマットではすごく分かりやすくはまるし、またメンバーの個性も分かりやすく聴こえる。僕は松本健一さんのサックスってとても好きなんだが、きっかけは昨年やはりアケタ・オーケストラのライヴで彼のソロを聴いたことだ。
ちなみにそのときの曲は、この夜2セット1曲目でも演奏された「スモール・パピオン」。しかし、今夜のヴァージョンでソリストを務めたのはトランペットの渡辺さんとアルトの宮野さん。渡辺さんの熱いソロが先。そして続くのが宮野さん。日本のデスモンドを標榜する宮野さん、さっきも書いたが演奏をまともに聴いたのは初めて。そして、個人的にはこの日一番持ってかれた!ヴィブラートを抑えためちゃくちゃクールな響きのアルトのソロが始まると、ステージ上のそれまでの押せ押せの演奏の熱が一瞬にしてひくんだが、そこからその響きに合わせなんだかスムースで柔らかい不思議な感覚のスウィングが始まるのだ。おもしろいわあ。その変化をうまく支えた楠本さんのドラムと鈴木さんのベースもほんと見事だった。
松本さんに関しては、ラストの「エアジン・ラプソディ」だったと思うが、相変わらずすばらしくアナーキーで初期衝動的なブロウ。コルトレーン的な榎本さんのテナーとは対照的だった。新しい発見もあったりと、この日のアケタ・オーケストラとてもよかった。