さて、そんな音楽生活を送っている自分が先週の土曜日(2月14日)に行ったライブのことを書きたい。場所は横浜のドルフィーというジャズのライブハウス。出演は友部正人(g.vo)&板橋文夫(p)。この2人がデュオでやるという情報を知ってから3ヶ月近く、僕はほんとに楽しみにしていた。
当日は早い時間に桜木町に着いて、店の外で並んで待っていた。するとリハーサルの音が聴こえてきて、もうそれだけで胸が躍る、やばい。若干遅れた開場で、それから開演までの30分ぐらいのあいだで80人かそれ以上のお客さんで一気に店の椅子は埋まった。この2人でのライヴは関東では初めてということなので、客は集まるだろうなあと思ってはいたが、もう予想以上だ。ちなみに自分は嬉しいことに最前列に座ることができた。
さて、7時半過ぎに店内の灯りが暗くなり、友部さんの登場。まずは1人で。一曲目は「はやいぞはやいぞ」。最近友部さんはこの歌をよくうたう。2曲目は新曲だった。
そして板橋さんがいよいよ登場し、一発目が「愛について」。優しく軽快に歌われるピアノにうっとりした。この曲が終わったあといきなり唐突に板橋さんが友部さんに話しかける。「いーや、久しぶりだねえ!」と一昨年の北海道のツアーの思いで話。噛み合ってるのかそうでないのかよく分からない間で話す2人に、クスクスと笑い声が会場からは漏れていた。続いてが「私の踊り子」。これまたうっとり系だ。
右足はときおりグッグッと動いていたものの、いやあ、板さんのピアノは友さんに合わせて今日は普段よりもちょっと綺麗な感じだなあと思っていたら、次の「38万キロ」でいきなり両者爆発。ここ数年ではアフリカの音楽にも積極的に取り組んでいる板橋さんの打楽器的奏法は本当に迫力がある。太い腕でハンマー投げの球ぐらいに重そうな拳が鍵盤に落とされる。友部さんもこんな姿見たことがないなあというほど叫ぶ。すげえわ。「横浜は寒いって聞いてたけど、熱いよね」と話した友さんは、次の「夜は言葉」でも徐々に盛り上がる板橋さんのピアノにあわせ「どおやってえ、伝えーよーーう!」と叫んでいた。
1セットめの最後が「夕暮れ」で、とりあえず休憩。両者とも若干ハアハアいってた。確かこの2人同じぐらいの年齢だよな、53か54歳。プロレスの天龍源一郎もそれぐらいで、「53歳」という技も使っているんだよなあ。と、まあそれはどうでもいい。
さて2セットめの1曲目は、板橋さんのソロで「渡良瀬」。スケールがでかく、かつ心の奥深くをかきむしられるような激情と叙情を持った板橋文夫の代表曲だ。会場がほんとに静まりかえる圧倒的な演奏で、みんな食い入るように見入って聴き入っていた。友さんが登場し、詩の朗読。それに合わせ板橋さんが即興でピアノの演奏。音楽が加わることで言葉はまたいろんな新たな意味が与えられるのだなということがあらためて分かった。そういえば、この翌日から「no media」が始まったんだよな。友部さんが再びギターを持ち「月の光」、終わりのほうでの友部さんのギターが鳴らす反復に合わせ、ピアノがガンガン叩かれる。それがまた奇妙な美しさを持っていた。「ひっそりとした夜の町は/エンジンを切ったオートバイ/それとも誰かがふたをあけて/弾くのを待っているピアノ」この部分で僕はいつもなぜか泣きそうになる「こわれてしまった一日」では、板橋さんのピアニカが不思議な響きを聴かせていた。
そして、この夜の最大の見せ場ともいえた曲「君はこんな言い方嫌かも知れないけど」。前の前の「月の光」でちょろっとあった反復がここでは全体を支配している。板さんの弾く、音は重く厚いがすばらしく躍動的なグルーヴを持つピアノ、そして友さんの力強いストロークで反復を繰り返すアコギ。それらが楽曲にすさまじいうねりをつくりだす。それはアフリカ的でもあり、ブルースでもある。また特筆すべきがここでの友部さんのボーカルだ。歌うというよりはその反復のグルーヴが生み出す恍惚感にひっぱられるように、とにかく叫ぶ。体が強制的にそうせざるを得ないのだというように、声が裏返ろうと喉がつぶれそうな勢いであろうと関係なく、叫ぶのだ。いやあ、この曲にはほんと参った。最後は「こーんど、君にーいつ会―えるぅ!!」と板橋さんも客席もハモッての「夕日は昇る」。
アンコールはなんと2人で「フォー・ユー」。メインのあの美しい旋律をハーモニカで友さんが吹くという、個人的には貴重なものを聴かせて貰ったという感じの曲だった。
友さん板さんそれぞれのライブを今年もまた僕は何回も行くのだろうが、このデュオ1年に一回は聴かせてほしいと思う。それと、この日ほとんど初めて聞いた(特に空港のエピソードは笑えた)板橋さんの味のあるトークも1年に一回は聞かせてほしい。