オーネット・コールマン曲カヴァーの傑作を聴く

 11月もやはりオーネット・コールマンしかほとんど聴いていなかったが、時代を戻ったり進んだりしながらも、ようやく「ヴァージン・ビューティ」まで来た。80年代のオーネットも最高で、パット・メセニーとの怒涛の「ソングX」、オリジナル・カルテットとプライム・タイムによる「イン・オール・ランゲージズ」(オリジナル・カルテットのサイドが自分は好き)、そして曲というか楽曲の雰囲気・サウンドの変さ加減では一番かなと思われる「ヴァージン〜」。この3連発を浴びてさらにオーネットに目覚めた。50年代から80年代の音源を約3ヶ月で聴いたわけだから、駆け足すぎてまだまだオーネットを理解したとはいえないのは当然としても、確実に自分の中ではオーネット視点ができたというか、ジャズを聴く際の強力な基準として、オーネット・コールマンという存在がものすごく大きくなった。
 同時に最近やっているのが、本人以外の他のミュージシャンによるオーネット楽曲演奏を聴く、オーネットのカヴァーを聴くということ。
 とりあえず自分のitunesに入ってるものを検索したら、43曲見つかった。この人のこのアルバムでオーネットの曲やってたんだーとか再発見は大いにある。そもそも以前はオーネットを特別な存在として意識してなかったからオーネットの曲だからってそんなのは別に関係なくスルーしまくっていたのだが、今は違う。オーネットの名曲をどのように演奏しているかのそのセンスでそのミュージシャンの個性が思いっきり感じ取れるのが非常に燃える。印象に残った5曲を挙げると、(アーティスト/アルバム名/曲名/録音年)

(1)菊地雅章 / Attached / Peace / 1989
(2)Paul Bley / Closer / Crossroads / 1965
(3)Sergi Sirvent / FREE QUARTET / Lonley Woman / 2003
(4)Hakon Kornstad & Havard Wiik / The Bad & The Beautiful / Law Years / 2006
(5)武田和命 / Infinity / Lonley Woman / 1989

(4)以外はオーネットの初期の曲ばかりだ。
(1)ピアノ独演での菊地は、オリジナルのシンプルなテーマに触発されながら彼独自のブルースを展開する。その重いのだが淀みない流れが、まさに菊地という感じがして聴けば聴くほどはまっていくバージョン。オーネットのような陽性のものとはまた異質な美しさを感じさせる。
 歴史的名盤ESPレーベル(2)の中では冒頭「Ida Lupino」と並んでアルバムのハイライトではないかと思われる「Crossroads」。オーネット・クインテット58年録音でブレイも参加している、今CDだと「Complete Live At The Hillcrest Club」ってやつの中でも聴ける曲。短い時間の中でキレまくるブレイの性急なピアノにゾクリとする。Steve Swallow(b)とBarry Altschul(per)の二人との不思議なバランスも何度聴いてもはまる。
(3) hatというグループなどで知る人ぞ知るスペインの若手鬼才ピアニストがやはりスペインのレーベルFresh Sound New Tallentからリリースした作品に収録。ツイン・ドラムとピアノ、ベースという編成。「When the Blues WiLL Leave」「Peace」とオーネット曲を計3曲やってるが、この「Lonley Woman」のテンションがずば抜けている。打音の強さと重さスピード、一音一音の存在感と、このピアニストは本当に素晴らしい。もっと注目されればいいのだが。
 北欧アトミック人脈によるデュオ作(レーベル:moserobie)からの一曲(4)は、中盤からのHavard Wiikのピアノに耳を奪われる。前述のSergi Sirventとくらべても洗練の度合が高く、饒舌な感がある。好みとしては僕はSirventだが、Wiikの音にも相当唸らせられる。
 武田和命の晩年の傑作のひとつサックストリオ(5)。レーベルは当然、アケタズ・ディスク。武田のサックスはオーネットではなくもろにコルトレーンという趣き。しかしやはりじーっと聴き入ってしまう。ドラムは古澤良治郎、ベースは吉野弘志。20年前の演奏になるが古澤さんは変わらず古澤さんだなあと感心。すごいドラムです。