2006年ライヴベスト5

 もう遅すぎますが、あけましておめでとうございます。
 昨年の大晦日および今年の元旦は仕事。世の中的には正月休みだってときに、普段どおりの仕事のペースで毎日を過ごしていた。元旦の昼間の新宿の静けさは気持ち悪いものがあったが、そこにああ正月なんだなって感慨を覚えたりもした。ちなみに年越しは嫁さんと国立ノートランクスで飲み。紅白も格闘技もまったく見てない。
 といっても合間にポツンとある休みの日の夜には、正月気分テンションのわっしょいわっしょいでドロドロの飲み会が続き、なんだか変な浮わつきかたをしていた数日。
 2006年のディスクベストは、このブログの左上にリンク貼ってある「おれわた」とノートランクスに今年も載っけてもらう予定です。助かります。(すんません石井さん、村上さんよろしくです!)
 自分のとこでは、行ったライヴベスト、書きます。
 ライヴの感想文は書いてないが、だいたい50本ちょっとぐらい観ただろうか。

●次点
10月30日 新宿ピットイン
ICPオーケストラ
ミシャ・メンゲルベルグもハン・ベニンクももう前衛からははるか離れた、味で生きる人。まあ現役ではない。でもこのICPOが醸し出す自由な雰囲気は、自分の胸の風通しをよくしてくれた。アヴァンギャルドだから良いなんて言説はもう通用しない。“音楽がおもしろい”という基本と、ちゃんとしたレベルがあったからこそ、このICPだってここまでちゃんと歩んでこれたのだ。
●第5位
7月1日 国立ノートランクス
明田川荘之(p)+片山広明(ts)+古澤良治郎(ds)
この面子を見たらそれだけでお腹いっぱいって人もいるだろう、まるで夜中に食べる豚の背脂がたっぷり入ったラーメンという一見。実際はどうだったかというと、明田川の外へ向かう狂気と古澤の内に向かう狂気に挟まれて、普通人の片山広明がひたすらに右往左往するという、どこか微笑ましい展開。3人とも嘘がないという素晴らしさ。
●第4位
2月26日 上野・東京文化会館
秋吉敏子(p)+MONDAY満ちる(vo.fl)
言うまでもないことだが、親子。しかし本格的な共演はこの日までなかったらしい。
個人的にはMONDAYと言うよりは、母・秋吉の方に気持ちを完全に持ってかれた。筋金入りの黒いビバップ、というか、表現のでかさに圧倒された。なにしろ死んでしまったJBが「プリーズ・プリーズ・プリーズ」でデビューをした1956年に、この人は渡米して本場のジャズシーンでプロとしての演奏活動を始めてるのだ。と言ってもそういう余計な歴史などまるでどこ吹く風というような、淡々と弾き続ける虚飾のなさも極めてジャズっぽくて感動した。
●第3位
8月11日 国立ノートランクス
酒井泰三(g)+外山明(ds)
酒井泰三というギタリストの肝が生きたグルーヴ感にあるとしたら、聴き手に想像力を常に絶えさせない先鋭的なリズムを鳴らし続ける外山明のドラムの音は、もう理想どころではないだろう。目の前にある粒子のうごめきを2人が繊細につかみ体現し、相手と自分を深く探りあいながら、絶妙なバランスで成立したファンク。これは絶対にまた聴きたい。
●第2位
3月13日 新宿ピットイン
原田依幸(p)+峰厚介(ts)+古澤良治郎(ds) ※ゲストで津上研太
信念という言葉がもっともふさわしいピアニスト・原田依幸アケタの店での自己のグループ以外で、彼の演奏を聴ける機会は現在ほとんどない。仕事の音楽はやらないという徹底したスタンス。だから彼のピアノの音はすり減っていないのだ。
で、経過は分からないがいきなり実現したこの組み合わせ。
出てきた音楽は、いまではなかなか聴くことできない腰が据わった力強さを持ったフリージャズだった。この3人だからこそ、生まれた音だと言っていい。
あの日のピットインに漂っていた、異常に張りつめた空気が忘れられない。
●第1位
3月5日 初台オペラシティ
本田竹広・追悼コンサート
渡辺貞夫山下洋輔、本田珠也、峰厚介鈴木良雄板橋文夫、村上寛、鈴木勲、五十嵐一生、その他
2006年の日本のジャズを語るうえで、本田竹広の死は最も重要な出来事だったと言い切ってもいいかもしれない。マスコミでも取り上げられたからというレベルではなく(いやそれもジャズの現況を考えればすごいことだが)、少なくない個々の聴き手やミュージシャンが一人のジャズマンの死を誠実に受けとめ、弔い、こういうちゃんとしたかたちにしたという点で。このコンサートには、60年代後半からの日本のジャズの偉大な歴史が目一杯詰まっていた。
歴史的名演といっていい板橋文夫のピアノソロ「ヘイ・ジュード」、ナベサダのものすごい存在感、そして鬼気迫る演奏と見事なプロデュースを行った竹広の息子・本田珠也。などなど、書ききれない。
ステージ・客席ともにこれだけ心のこもっていた感動的なコンサートを観たのは僕は初めてだった。

 それでは、今年もよろしくお願いします。