ゆれる、峰厚介トリオライヴ

 仕事は21時半過ぎまで。先週国立で夜中まで飲んでたときに友人がやたら絶賛・薦めていた映画「ゆれる」を妻と昨日観に行った。下高井戸駅前のひなびた映画館に。
 評判どおり、異常に良かった香川照之。演技技術の高さが裏付けとしてあるあの表情や動きの秀逸さ。演技力というよりかは良くも悪くも存在感だけで押し切ろうとする主役のオダギリジョーを完全に食っていた(オダギリはあれはあれでいいのかもしれんが)。というか香川は突出しすぎ。あの映画で彼に対峙できる俳優はいなかった。最悪なのはキム兄。うわあちょっとやばい。法廷シーンが思わずガキ使に見えてくるというのはこっちの勝手な解釈だとしても、スクリーンでキム兄がセリフを喋っただけでしらけるというか寒いというかとにかく映画のレベルが一瞬にしてガクンと下がってしまうのがなんとも痛い。(しかも彼にとりわけ味があるってわけでもない。)奇をてらうってのと、怪演ってのは似て非なるものだ。所詮雰囲気ものの薄っぺらいものでは一生(香川のような)後者の域にたどり着けない。
 話はとんで、先週の金曜の国立ノートランクスでのライヴ。メンバー、峰厚介(ts)、望月英明(b)、古澤良治郎(ds)。よかったなあ、いやほんとよかった。その日はそれしか感想が言えなくて、実際今思い出してもそれしか言えない。
 全曲、いわゆるジャズのスタンダード。こういうスタイルだけを見て興味ないって思う人間もいるだろうが、まあそういう人は置いといて、このトリオの演奏は刺激ありすぎる。べタに言えば、ロリンズのヴィレッジ・ヴァンガードのあの濃度を本質的に引き継いでるジャズ。つまりほんもの。クラブジャズ系によく見られるスタイルありきのハードバップとは全く、次元が違う。
 古澤のドラムは、ジャズのストイックなスウィング・リズム感覚を余裕で無視。ドッカンダッカンと最初からきれている。この爺さんはやはり筋金入りのパンクだということが分かる。しかし音楽的に言えばそこには例えば吉田達也のような突き放すぶっとび感とはまた違う、強力だが柔らかいグルーヴが常にある。
 そんなグルーヴを常に生きたものにするため、的確に全体を見ている望月のベースがまた良い。深く味わえる音。
 そして峰厚介のテナー。峰さん、いい。嘘くさいフレーズがいっさいない。歌ってるし、刺してくるし、凄い。音を出せば無駄なものが自然と除かれている、この人のサックスはそんな境地に達してるのかもしれない。
 感性の鋭さってのは、若いからとか年食ってるからってのは関係ない。つまりはその人がそのときどう生きているか、だ。平均年齢約60歳のこの3人は、繊細に愚直に、だけど常にちゃんと前を見ているのだろう。音楽なんて実態のないものとここまで長いあいだ闘ってきたということは凄いし感銘するが、なによりも、いまこの時点でも彼らがそれを実践しているということに共感できるってことが自分にとっては一番大事。そんなことが頭をグルグル駆け巡った感動的なライヴだった。