この日は酒井泰三(g)と林栄一(as)のデュオ。酒井がこの店で演奏をするのは初めて。自分は観てはいないが、林とのデュオ自体は3年ほど前に一度あったようだ。de-ga-showというバンドが数年前に活動停止してしまったため仕方がないのだが、こういう個性的でかつ脂の乗り切ったミュージシャン同士の共演の機会が最近あまりなかったというのも、何か非常にもったいないなと思ってしまう。
 ピットイン〜アケタの店というラインつまり中央線ジャズの本流ど真ん中に位置するこのノートランクスで、しかも林栄一という相当なオリジナルな奏者とのサシでのぶつかりあい。この強力なシチュエーションにおいて酒井泰三が演奏することでいったいどんな化学反応が起きるのか。酒井・林・そしてノートランクスの熱心なファンである自分にとっては、言うまでもなく尋常ではない期待と思いいれがある。その度合いは、全くベタな表現だと承知で言えば、日本VSブラジルどころの話ではなかった。(ところで、演奏前のMC第一声が「緊張してます」という酒井の冗談が、なにかある意味本音に聞こえなくもなかったのは、僕だけだろうか。)
 初めは、どこか緩んだ感触の酒井のギターの音。それに合わせグルーヴを探るように林のアルトが淀みなく旋回している。
 拡散していた音の粒が中・低音域にグーッと凝縮され、強烈な歪みと同時にまろやかさがあるという、酒井のギターの最大の個性のひとつであるあの太い音の伸びが出てきた前半中盤で、演奏全体のスイッチが入る。フリーキーと爆音全開の両者のもつれあいから、徐々にイン・テンポになっていく。酒井の跳ねるブルースのバッキングに林の高速のロングトーン。おもしろいように変化するリズムに、こちらの感覚はすっかりとらえられてしまう。
 酒井のオリジナルである「スナカゼ」や、de-ga-showのファーストでも演奏されている「花」、他には「レフト・アローン」も演奏されていた。
 彼のライヴを観るたびに思うのだが、僕は酒井泰三の音の、“いい意味で浮く”センスが好きだ。爆音を鳴らしっぱなしでいるようで、その実共演者との微妙な音楽バランスが保たれている。しかし、その個性的な音は耳にしっかり残る。逆に言うと、共演者の音の強度によってその音楽的深度も変わってくるのだが、この日の林栄一はその点でもう申し分なし。そしてやはりこのノートランクスで8月にドラムの外山明との共演が実現するという。
 これはもう僕の思いっきり主観と願望なのだが、今後の酒井の方向性のひとつとして、このところなかった曲者が揃う中央線ジャズ人脈との繋がり、その再復活ってのはぜったいおもしろいと思う。