2月17日(金)、横浜・桜木町ドルフィーでの板橋文夫(p)&友部正人(vo.g)のデュオ。 もう恒例と言っていいこの時期のこの二人のドルフィーでのライヴ。正直、一昨年・昨年と比較するとお客さんの入りという点ではやや寂しい部分もないこともなかったが、内容は今まで以上に充実していた。
 個人的には3週連続の板橋文夫ライヴ観戦でもある。週末は板橋文夫で、という生活もなかなか悪くないかもしれない。友部さんを生で聴くのは意外に久しぶり。去年8月の寿町フリーコンサートが最後。もっともあのときは自分はほとんど泥酔していたので、実質は6月の吉祥寺スタパ以来。相変わらず燐とした佇まいで、見惚れてしまう。
 この日のセットリストは以下。

【ファーストセット】
(①〜④までは友部ソロ)
①月の船②誰もぼくの絵を描けないだろう③君のからだはまるで(朗読)④影(朗読)⑤働く人⑥38万キロ⑦少年とライオン⑧月の光⑨眠り姫⑩愛はぼくのとっておきの色
【セカンドセット】
アリゲーターダンス(板橋ソロ)⑫ニレはELM⑬Speak Japanese American⑭ロックンロール⑮一本道⑯遠来⑰朝の電話
【アンコール】
⑱夕日は昇る


 友部さんもライヴ中に何度か言ってたように、過去何回かの二人の共演とは少し雰囲気が違っていた。リズムよりもメロディがまず耳に入ってくる。ファースト⑤や⑨なんかはその典型。90年代以降の友部さんらしいゆっくりと暖かい曲調に板橋さんの重厚なピアノが優しく艶やかに寄り添う。
 前半のクライマックスは間違いなく⑧だった。10年ぐらい前に、おおたか静流やタブラの吉見征樹との共演で素晴らしいヴァージョンを残しているこの友部さんの名曲だが、ちょっとそれ超えたかなと一瞬思った。ギターとピアノがつくる反復のパーカッシヴなサウンドと、力強く情熱的なメロディ。板橋さんも友部さんも叫ぶ叫ぶ。ほんと素晴らしい。
 30分ほどの休憩をおいて始まったセカンドセット。冒頭は板橋さんのソロ。最近演奏する機会が多い板橋さんの代表曲のひとつ⑪。キャリアの当初はマッコイ・タイナーなんかに多分な影響を受けていたんだろうが、30年かけてまったくオリジナルな板橋文夫の表現に昇華させたんだということが、板橋さんのこういうソロを聴いていると強く感じることができる。虚飾のまったくないピアノ。
 友部さんの新作からの⑫⑬が続いた後、この日自分が最も心を揺り動かされた⑭。

そうさ僕には昔を振り返る歌がない
だけどそんななかで知り合ったたくさんの人たちがいた
多分その人たちが僕の歌なんだろう
そのなかの何人かのひとたちは今でも友達さ



僕は僕のやってることを自分で歌にした
誰も僕のやってることなんて歌わないから
僕は僕のやってることを歌い続けた
だからときどきとても寂しくなるんだろう
友部正人「ロックンロール」)


 もう何度も接してきたこの歌のこの詩だが、聴いていて泣きそうになった。この日も全力で演奏している目の前の二人の生き方に本当にふさわしい詩だなと、なんだか感傷的だけどそんなことを思った。