で、話戻ると、昨日のドルフィーの板橋グループでは何と言っても田村夏樹だった。
 メンバーは、板橋(p)・井野信義(b)・外山明(ds)・田村夏樹(tp)・太田恵資(vl)。板橋グループには珍しく、この日はフロントにサックスがいない。というか、実はそれもあって聴きに行ったところもある。具体的に言えば、バリバリと吹く田村夏樹を聴けるのではという猛烈な期待を胸に自分はドルフィーに行ったのだ。そしてその期待は十分に満たされた。
 昨年のジャズ作品ベストのうちのひとつ、佐藤允彦SAIFAの「ライブ・アット・メールス トリビュート・トゥ・富樫雅彦」。あのライヴアルバムでの田村の演奏はほんとに凄かった。錚々たるの面々の中でも、大御所・峰厚介と並んで(ときには上回るほど)田村の存在感は際立っていた。自身の実験的なリーダー作よりも、田村の高いポテンシャルそして音楽性が分かりやすく生きるのが、こういうソリストとして参加したときの仕事ではないかと個人的には思っている。
 佐藤允彦と同様に、独自で強固な世界を持つ板橋文夫の音楽の中でも、田村は生き生きと個性を爆発させていた。脱力と諧謔?と見せかけて、ハンニバルかジョン・ファディスかあるいはヒノテルかといったハイノートを全開させて、こちらを一気にねじ伏せる。なにより常にお約束や定型の表現に陥らないヒリヒリした緊張感があるのが素晴らしい。とりあえず来たものは全部対応しますよ、というリアル・ガチンコなジャズマン的なアティテュードもヒシヒシ感じられ、頼もしいのだこの人(外見はその辺の普通の気のよさそうなおっさんなんだが)。