平野、田中、ルネ

 仕事、8時半過ぎまで。帰りに待ち合わせのために駅前の喫茶店で読書。
 この前買った対談「TALKIN’ジャズ×文学」をざっと読む。個人的には数年前の芥川賞受賞作だけは読んだことがある平野啓一郎、ジャズは詳しそう。ただ、本人の趣味なのか対談相手が小川隆夫だからなのか、あるいは企画サイドの意向か、取り上げているミュージシャンが定番すぎるというかスウィング・ジャーナル的すぎる。マイルス、ビル・エヴァンスキース・ジャレットコルトレーン、ショーター、ウィントン・マルサリス・・・って、これらの名前を挙げるだけで、大体どんなこと話してるか想像つくだろう。要するに、時代に対する嗅覚が止まってるんだよ。
 通勤時のipodでは、田中信正KARTELL「ODD OR EVEN」を聴いていた。この人のピアノ・ソロ傑作「mummy’s dance」に比べると、全体的に破壊度が低くて、ちょっとかったるいかなと思う部分もあったが、モンクのような変態的不協和音が随所で爆発する「NARDIS」とか、やっぱ良い。
 基本的に黒いやつが好物という自分の趣味からいうと、田中信正のピアノって、実は微妙にずれてるなあとは思う。ハーモニーや旋律に重きを置くヨーロッパ的美学にピンとこないときが正直ある。だが、本人がそれにどれぐらい自覚的であるかは分からないが、ときどきそんな黒いとか白いとかでしか判断できないこちらの硬直した感性を粉々にぶっ壊すようなものすごい音の波を作り出すときがあって、そんときは、いやーこれは他に比べるものがない個性だなと圧倒されるのだ。今年5月のピットインでのソロライヴの衝撃は、ほんといまだ忘れられない。
 あと、人から貰ったCDを家で聴いてて、ちょっとよかったのが、ルネ・ユルトルジェ。50年ぐらい前に「死刑台のエレベーター」でマイルスといっしょにやってるピアニスト。ピアノを気持ちよく叩きつける感じがグッとくる。まあこういうので反応してるあたりで、俺はオヤジジャズの影響をやはり相当受けてるのだと思うよ。いまの自分はフリージャズしか聴けないかも・・・、なんて思っていたけど全然そんなことなかった。