幸いにというか、林さんの到着が遅れたために、ライヴの開始は8時半近くまでずれこんだ。ビールを飲みながらじっくり開始を待つ。
 CDやらで音源にはずいぶん触れていたのだが、よく考えれば、林さんを自分が生で聴くのはずいぶん久しぶりだ。2月以来。当然、復帰後は初ということになる。で、師弟関係にあるというこの二人のデュオを聴くのは初めて。
 ファーストセットが始まる。美メロ・哀愁路線というか、なんとなく北欧ピアノトリオ的な心地よさが前面に出た楽曲が続く。僕のような単純思考の人間にとっては、このへんの味わいというのはほとんどピンとこない。そこには久保島さんのオリジナルも含まれていたのだが、林さんが「これ、なんか冬のソナタっぽいね」と苦笑しながらボソッとつぶやいた。
 だからというわけではないだろうけど、次の曲はいきなり趣きが変わった。デューク・エリントンの曲。林さんのエリントンといえば、最近では渋谷さんとこでもやってるけど、10年前の大西順子の作品においてのあの躍動感は忘れられない。で、この日も素晴らしかった。独特なリズム感に基づいた性急的なフラジオ奏法によって、まわりの空気が一瞬にして音の中に凝縮される様はほんと惚れ惚れする。音色もかなり個性的だが、やはりスウィング感が林栄一の場合、特別だと思う。どこか意図的なズラシがあるというか、揺れがあるというか。
 セカンドセットでは、まずお互いのソロを1曲ずつ。
 デュオに戻ったその後の展開がこの日の最大のピークだった。まず、久保島さんのオリジナル「レッドホット」。前述の哀愁路線とはガラっと変わった攻撃的なフリー寄りのジャズだ。林さんとの正面からのぶつかりあいがものすごくスリルがある。久保島直樹というピアニストの本質がそこに見える。
 その熱気を引きずって、次の曲「回想」に入る。先日発売された板橋文夫とのデュオアルバムでもハイライトだった林さんの名曲。中盤から後半の2人の激しい演奏でもう泣きそうになった。何かを壊していきながら、同時に優しく暖かい何かが生まれているようなそんな感覚だった。