その後はジロキチにライヴを聴きに。この日は、古澤良治郎の還暦バースデーライヴで、古澤さんのバンド「ね.」+ゲスト(渋谷毅酒井泰三かわいしのぶ)の出演。
 ね.の演奏を聴くのは初めてだったのだが、驚いたのが、古澤さんがまともにドラムを叩いたのはなんと1曲のみだったこと。ボブ・マーリーの「get up stand up」のときだけ。基本的にはバンドのコンダクター的な役割に徹しているようだが、ステージ上をフラフラと徘徊しながら踊ったり歌ったりしているただの酔っ払ったおじさん、という風に見えないこともないのが凄い。
 ほとんどの曲が、古澤さんのオリジナル。レゲエや、アフリカ音楽(前日に古澤さんは、ティナリウェンというサハラ砂漠の伝統音楽を演奏するバンドのライヴに行ったそうだ)、ファンク、それとニューオリンズR&Bといった、リズムに重点を置いた黒人音楽・ダンスミュージックを基本にしつつも、そこにアジアのテイストと中央線的焼酎の匂いが多分に入った音楽。ね.のコンセプトって、そんな感じだろうか。
 音楽性として、ジャズで叩いてるときの古澤さんとはまったく違うというわけでもなく、むしろ、ね.を聴くことで、ドラマーとしての古澤さんの個性がよく理解できるとも言える。古澤さんの叩く、その辺のヒップホップよりも全然気持ちよくスコーン!と抜けるスネアの音や、あの独特なバネは、なるほどこういう世界観からきてるのか、と僕はこの日納得した。そして久々に、ストレートに楽しいなあと思える音楽だった。古澤さんといっしょに踊りたくなった。ジロキチのテーブルと椅子がほんと邪魔に感じるぐらい。
 で、個人的にお目当ての酒井泰三のギター。上述した、ね.というか古澤さんの音楽コンセプトに彼のファンキーなギターはやはりよく合う。多層なリズムと溶け込みぶつかりあい、ときには全体のグルーヴを加速させていく様は刺激的。渋谷毅の黒さが立ったオルガンとの共演という珍しい光景もあって、これはもっと聴きたかったなと思った。