板橋&林

 mixi板橋文夫コミュニティで知り合ったスズキさん夫妻と、名古屋のラブリーというライヴハウス板橋文夫林栄一のデュオを聴く。4月に発売された2人のライヴアルバム発売記念ツアーだ。春から夏にかけてもこの内容のツアーは行なわれていて、春に僕は新宿ピットインで聴いている。
 いきなりだが、比較で言うと、板橋さんとよくいっしょに演奏するやはり素晴らしいサックス奏者片山広明さん、彼の音、あの絶妙な間やブッ太いトーンがつくる情緒や扇情は、板橋さんの熱いピアノにすんなりと溶け込む。一方、リー・コニッツやオーネットがよく引き合いに出される林さんの硬質で細かい粒子がギュギュッとつまったトーン、こちらを翻弄するリズム感覚は、板橋さんの音楽に対してはどちらかというと異物的。
 そんなお互いの強烈な色に両者が染まらないという意味では、板橋さんと林さんのデュオはガチンコでもあるが、それはかみ合わないまま、「歌もの」や「フリー」という形式だけ提示して終わってしまうことだってあり得るリスクを伴った組み合わせでもある。
 さてこの日の演奏、CDには収録されていないいずれも林さんの作である新曲「鶴」と「ブラザー」の演奏で特にそうだったが、今年を通して集中的にこのデュオとしての演奏を行なってきた成果がはっきりと出ていたと僕には思えた。前述した「歌もの」あるいは「フリー」というような外から持ってきた線引きはそこにはなくなり、それぞれの強烈な音の個性が混じりあい呼応しあい、要するにめちゃくちゃスウィングしていたのだ。
 このデュオの見せ場とも言える「平和に生きる権利」。ラブリーで僕が聴いたこの曲のとてつもなく優しく深い響きというのは、融和した2人の孤高の表現者の魂そのものの響きである。と、いつもながらの誇大妄想的なことを言ってみたくなる、濃いライヴだった。