ちょうど1時間半ぐらいかけて、19時過ぎに桜木町に着いた。目的地はライヴハウスドルフィーで、今日のステージは板橋文夫(p)+竹澤悦子(箏)。ゲストで壱太郎(和太鼓)、そして飛び入りでの特別ゲストが上妻宏光。三味線弾きの上妻さんはこの日は純粋にお客さんとして来ていたらしいが、急遽セカンド・ステージで1曲参加。今日の出演者の中では一番メジャーだと思うけど、ドルフィーのお客さん(自分も含めてだが)、へぇーぐらいの微反応。
まあそれはいいとして、個人的には前回来たときの板橋&友部ライヴの印象が強くて、ドルフィー混むかなあ?なんて思ってかなり気合い入れて走って到着したんだが、店入ったら、そんなでもなく拍子抜け。
ステージは向かって左にピアノ、真ん中に17弦の箏が2台、右に平置きにされた和太鼓が3台。ステージの向こうにある楽屋に演奏者が行き来するのもなかなか大変なほど、大がかりなセットだった。
20時ちょうど頃に、板橋さんと竹澤さんがふらっと登場。まずは2人で「キンチョーの夏」。板橋さんのライヴ1曲目は必ずこういう探りあいのインプロなんだけど、板さんは当然として、竹澤さんにもかなり目を奪われた。激しく上体を揺らし、弦を掻き毟るように弾いていたり、「ハッ!!」とか叫んでたり。徐々にフリーからテンポが一定になり、竹澤さんの箏がリフを繰り返しはじめるとそこからはゆったりとしたブルースに。すげえな、これ予想以上に変な展開だ。
短いMCを挟み、和太鼓の壱太郎さんが登場。「ここからはメドレーなので、すごく長いです。覚悟しておいて下さい。」と竹澤さんの前置き。そして、その通りの45分ぐらいぶっ続けての演奏が始まる。自分にとっては、この日のステージのクライマックスがこのメドレーだった。冒頭は壱太郎氏の短いソロから始まる。BPM遅めのミニマルなビートが刻まれ、そこに板橋さんと竹澤さんの叙情的なメロディを基にした演奏がリズミカルに乗っかる。板さんのピアノは「ズイズイズッコロバシ、ゴマミソズイ♪」の旋律を弾いてたり。テンポがゆっくり落ちて、そこに竹澤さんのヴォーカルが入ってくる。まず「ソーラン節」。地唄もやってる竹澤さんのその切々とした情感たっぷりの唄の後は、期待どおりの板橋さんの怒涛の演奏が続く。椅子から腰を浮かしてダンダタッタ!ダンダタッタ!という力強いブロックコードを叩き、鍵盤は握り拳でグリングリン!
いや、ハードだなあすげえなあなんて圧倒されてたら、再び竹澤さんの唄が始まった。「竹田の子守唄」だ。以前、「ヨイトマケの唄」を板橋さんがピアノで弾いていて、その演奏にえらい感動したけど、この「竹田〜」もかなり板さんのイメージに合ってるなあ。情緒ど真ん中というか、情念というか。日本っぽい曲ちょっとやってみましたというよくある安易なスタンスとは違う、必然性がほんとに感じられる板橋さんのピアノ。そんなことが頭の中をグルグルと駆け巡って、ボーっと考えていたら、聴いたことのあるフレーズが耳に入る。きたよ!「Roy-cwatone」!「渡良瀬」路線のひとつの頂点とも言える、このスケールのでかい名曲。今日は20分以上やっていたんではないだろうか。つまりこの長いメドレーの半分以上。
で、ここに来ると、竹澤さんの箏の演奏のテンションも尋常ではなく、鉢のようなもので弦を叩いたり、ギターでいうボトルネック奏法みたいなことをやってたりと、もうわけ分からない。
あとあらためて感じたのが、板橋さんのピアノのリズム感覚というかグルーヴの素晴らしさのことで、それはドシャメシャ一本やりではなく、こちらをすごく踊らせるんだよな。実際、ドルフィーで僕は座りながらも、とにかく足を鳴らし肩を揺らしてしまう。そんなこんなでファーストステージは大興奮で終わる。
続いてセカンドステージは、前述した上妻さんが飛び入りで入って、すごくファンキーな「八木節」。その後は再び板橋&竹澤のデュオで、2曲。しっとりした曲で、こういう曲だと箏の音の色気のある響きがすごくよく映える。多分1曲は「暗恋桃花源」だったと思うんだが、かなりジーンときた。
本編最後は雰囲気が一転して、タイトルはわからないが、やはりワッショイワッショイドシャメシャ路線の曲。板橋さんのあのライヴでの全身で弾くスタイルって、見てるだけで興奮してくるんだが、それは例えばピート・タウンゼントとか甲本ヒロトとかジョニー・ロットンとかそういうロックの人たちのライヴでの姿を見て興奮するのと同じ質のものなんだろうなあ。大丈夫かなあ、プッツンきれて死なねえよなあ?みたいな(笑)。
アンコールは板さん1人で。「フォー・ユー」。定番だ。しかし、なんかこの日の「フォー・ユー」はお約束ではない雰囲気。ちょっとアレンジが普段と変わったと思うんだが、でだしのあのすごく美しいメロディから受けるうっとり感が途切れないのだ。
素晴らしいライヴだった。