バット・ビューティフル

仕事。21時近くまで職場にいた。明日の会議のための資料づくりなど。帰り道のコンビニに寄る。「プロレススターウォーズ」という小学生のときに非常にはまっていた漫画を描いていたみのもけんじの新作を立ち読みした。物語の主題は、「総合格闘技に挑むプロレスラー」。熱い漫画だった。あきらかに高田延彦やミルコのようなキャラも出ていたし、まあ一言で言えばコテコテで単純な漫画なんだが、自分の中の「男のロマン」的な部分をなにか刺激する。藤子F不二雄の短編集とビールを買って、店を出て家に着いたのは22時過ぎ。
さて、自分がはてなダイアリーで日記を書くようになって昨日でちょうど1年経った。で、偶然にも、その記念すべき(?)日に、このはてなで出会った友人と初めて実際に会った。その友人とは、「静かなるケニー」ことトランペッター・ケニー・ドーハムに由来したIDを持つ男、id:dorhamさん。僕の日記に初めてコメントを寄せてくれた人であり、またmixiに招待していただいたりと何かとお世話になってる方だ。dorhamさん、今どういうの聴いてるんだろうなあとか、あるいはどういうこと考えてるんだろうなあと思いながら、僕は彼の日記「5×3」をずっと愛読している、昨日直接は言わなかったけど。ちなみに年齢は一学年こっちが上。しかし、ジャズ歴はあっちが長い。僕が1年半ぐらいで、あちらは2年半ぐらい?
駅に車で迎えにきてもらい、車中ではなんか適当な自己紹介をした。何緊張してるんだ、30目前のおっさんのくせに俺。dorham宅に着いて、大して話をするでもなしにいきなりCDをかけはじめた。1曲目、なんだったっけ?ハンク・モブレーだったかな?マルとスティーブ・レーシーのは3曲目ぐらいだったっけ?と、忘れるぐらいになんか怒涛の勢いでCDをかけまくる。この日のために僕が自宅でチョイスしたディスクも彼のオーディオで再生してもらった。
1枚目は武田和命の「Gentle November」。いいオーディオで聴くとまた、これ来ますわ!dorhamさん曰く「これ、ある意味コルトレーン以上ですよね?」ほんとその通りの武田さんの深いトーン。2枚目は、パーカーの「Bird At St. Nick's」。まともに聴こえてくるのがパーカーのアルトだけという全くすさまじい録音状態なのだが、そのアルトの魔力。ほんと、なんだこりゃ!?の世界だ。「いや、やっぱすごいね、パーカー」と僕が言えば、dorhamさんは「もうこれ聴いたら、他はいいって感じですね」と。しかし、振り返ればそんな話していたのもまだ序盤。
その後、彼が取り出してきたのがジョー・ジョーンズ・セクステットのアルバム。と言うか名前も聞いたことないなあと思ってたら、ベニー・グリーンが吹いてるじゃん、トローンボーン。僕も持ってきたんですよ、ベニーのブルーノートからのリーダー作品。4010番。まずベニーのリーダーのやつをかけさせてもらって、その後ジョー・ジョーンズかけて分かった、ベニーの個性。バップではなくスウィングだ。田舎臭さにほっとするんだよな、ベニー。ズート、アート・テイタムなどを聴いて、ビデオ「マイルス・ア・ヘッド」やデートコースのDVDなどを観せてもらったりとハードで濃い時間が過ぎる。僕はあまり知らない菊地成孔氏のことを教えてもらったり。
dorhamさんの「ジャズを聴いてるとベースに過剰に反応してしまうんですよ」という発言はおもしろかった。雑にというか、大雑把に聴いてしまう僕は、はっきり言ってベースはそんな聴かない部分だ。「普通、ジャズでそんなに聴かないよね?ベースとかドラムとかって?」と僕が問うたところ、「そう、それは最初にすごく読んでた寺島さんの影響なんですよ」とdorhamさん。寺島さんとは言うまでもなく、ジャズ評論家寺島靖国氏のことで、教条的で権威主義的に陥りがちな王道のジャズ観に対して常に批判的な立場に立つ評論家だ。熱狂的なオーディオマニアとしても有名。で、俺はと言えば、その寺島氏と何かと対立するというか論戦を繰り広げる後藤雅洋氏の評論をルーツとして(勝手にだけど)持っている。じゃあここで寺島VS後藤の(しょぼい)代理戦争か?と思ったら、決してそんなことにはならない。と言うのもdorhamさんのジャズに対する懐の深さがそうさせないのだ。こちらの意見に対しても「なるほど!」とまずは認める。その辺、まずは否定から入る僕の狭さとは違う。また、オーディオ好きということから来てるのであろう、音質に対する指摘もなかなか具体的。それでもディティールのみに拘るというわけでもなく、全体を聴いている。
特に印象的だったのは、「Sonny Stitt- Bud Powell-J.J.Johnson」を聴いたとき。僕が「これいい!かっこいいねえ!」とばかみたいに興奮してうなっていたら、dorhamさんは、「結局、俺とsabioさんはビ・バップが好きなんだよね、この前のめりになる感じが」と実にさらっと言う。うわ、いいこと言うね!まさにそうだ。自分の中にもやもやしてるものを見事に言葉にしてもらった。
モダン・ジャズだけではなく、変なやつをということで僕が持参したジョー・ザヴィヌルの「Dialects」の3曲目、えせデトロイト・テクノといった趣きの曲を流してびっくりさせようと思ったら、ハービーの「SEXTANT」というアルバムで返り討ちにあった。ハービー、こんなのやってたんだあ。
平日の午後、5時間近くスピーカーの前でジャズに向かうという全くストイックな時間を過ごし、気づけば外はもう薄暗くなっていた。車で駅まで送ってもらい、駅からは自転車で家まで帰る。途中吉野屋で豚丼を食べ、家に着いてボーっとしていたら、22時ぐらいには寝てしまった。安易な言葉を使えば、心地いい疲労感とはまさにこういうことを言うんだろう。ほんと、楽しかった。お邪魔しました。

●私信へのお返事・・・チャールス・マクファーソンの「バット・ビューティフル」です。染みますね、このアルト。

●私信・・・17歳女性の迷い人はその後どうなりましたかね?