アケタの店〜赤いカラス

昼過ぎに西荻窪に電車で出かける。「アケタの店」にアケタ西荻サンデー・アフターヌーン・オーケストラのライヴを観にいくため。明田川荘之(p,オカリーナ)渡辺隆雄(tp)佐藤春樹(tb)林栄一(as)松本健一(ts)鈴木克人(b)本田珠也(ds)の7人編成による演奏は午後3時ごろから始まった。椅子が全部埋まった状態で立ち見が出るほど客はかなり入っていた。「物見遊山でけっこう集まったね」と明田川さんが笑っていた。スモール・パピオンという曲での松本健一さんのソロと明田川さんのピアノの激しいぶつかりあいに、大興奮。それと特に林栄一さんのソロが胸に迫った「ミスター板谷の思い出」も良かった。明田川さんの演奏は初めて観たのだが、かなり熱かった。感情を音にするために鍵盤を思いっきり打ち叩く姿とこちらに伝わるそのエネルギーはほんとに凄い。50代のおじさんがここまで激しく己のありったけをこめて何かをするのを観る機会って音楽以外ではなかなかないよな、とボーっと思いながら観ていたりもした。
明田川さんと同じ50代のピアニスト板橋文夫の率いるミックス・ダイナマイト・トリオのライヴが夜に「赤いカラス」で行われるので、「アケタの店」のライヴが終わると電車に乗りひとつ先の吉祥寺まで。ちょっと時間があったので、ユニオンのジャズ・クラシック館で買い物。アート・ペッパーの「ジ・アート・オブ・ペッパー」(57年)とロリンズの「ザ・サウンド・オブ・ソニー」(57年)、キャノンボール・アダレイミルト・ジャクソンの共演作のCD3枚を買った。
「赤いカラス」には初めて入った。店内はわりと広くきれいで、店長と奥さんが気さくに話しかけてきたりと雰囲気もよい。店長さんと親しい常連さんのグループもいれば、デートの夕食として予約して来るカップルもいれば、一人で真剣に聴きにきたぞというようなジャズファンもいるといったいろんな客層。頼んだピザがかなり美味しかった。
今夜の板橋文夫(p)井野信義(b)、小山彰太(ds)の名トリオによるステージは、フリー系の即興演奏「赤いカラスの夜」という曲から始まった。1セットでは「タンゴ99」〜「サンパウロ」の流れが素晴らしかった。板橋さんはブラジルで一昨年ツアーをしたそうで、おそらくその時期にできたと思われる「サンパウロ」の躍動的な展開は聴いていてとても盛り上がる。「武力行使は、反対です。」という板橋さんの言葉から始まった2セットめの1曲目は「悲しき兵士」というタイトル。この曲は戦争反対シリーズ第3弾ということだ。最も自由であるべき人の心をすべてにおいて抑圧・破壊する戦争というものに対して、人の心を無限に解放する目的を持つ音楽という表現は徹底して対抗していかなければならない。言葉で言うと非常に単純だが、この曲の演奏を聴いていた僕の頭にはそんな思いが駆け巡っていた。最後の「フォー・ユー」はやはり名曲。
シンプルなバラードやブルース、あるいは美しく郷愁的なメロディがスッとあらわれ、それに耳を引き寄せられ自分の心が演奏の中に入る。だんだんとその演奏がアグレッシブでハードなものとなっていき、リズムが曲を大きくうねらせていく。やがてそれが最高潮に達したときの興奮と心が熱くなる感じ。その人が音楽を多少でも聴こうという姿勢を持っているのであれば、ジャズを全く知らなくとも、板橋さんのジャズは必ずその興奮と感動を聴き手に与えてくれる。
店で飲みすぎたのか食べすぎたのか、意外に外が寒かったからなのか、帰りの中央線で下痢になって、途中国立駅で電車から降りてトイレに入った。