先週末のライヴとイベントの感想

 9月11日(金)

 仕事は早番で19時過ぎにあがる。国立に電車で向かい、20時前に到着。約1か月ぶり、前回は板橋文夫のソロを聴いた国立ノートランクスで、今日は松風鉱一&小森慶子の双頭クインテットのライヴを観に。メンバーは、松風(ts,as,fl),小森(as,ss,cl),清水くるみ(p),吉野弘志(b),藤井信雄(ds)。
 もともとは、松風・吉野・藤井のおやじトリオが前身だったこのユニット。そこに小森が加わり、さらに清水が加わり、クインテット編成に落ち着いたらしい。2〜3年前、やはりこの店で最初のおやじトリオを観たことがあるが、ジャズのサックストリオの旨味がたっぷりと詰まった素晴らしい演奏だった記憶がある。そこにさらに2人が加わり、どんなことになってるのか?非常に期待を持って臨む。

 演奏が始まってすぐに、ああこれはよいバンドだと確信した。5人の相性がとてもよいのだろうな、それぞれの音がいい具合に融合している。核となるおやじ3人のジャズは、吉野のベースと藤井のドラムがつくり出す粘り気のあるグルーヴ、松風の自在なリードが巧みにからみ、やわらかくも芯の強い塊がややゆったりめのスピードでスウィングしていきながら、じわじわとこちらの耳をとらえ、最後はどっぷりはまらせるという非常にストイックな様相。ピアノともう一人のリード奏者が加わることで厚味と強度が増して、そのサウンドの骨格がもっとストレートに伝わるようになった。粘り気のあるグルーヴを途切れさせないこと、音の進む方向を正しく聴き取りながら緩急を自然なかたちでつけていくこと、そして主に松風作による楽曲の世界観を生かすこと、5人がそういったところを非常に意識しながら演奏してるのがとても感じられる。こういうバンドはほんとに好きだ。ジャズって感じがする。ジャズのグルーヴ、ジャズの黒さ、ジャズの自由さがある。

 全体のサウンドの波にのまれながら、個々の演奏の細部にも同時に耳がぴったり貼りついてしまうという、よいバンドを聴くときに聴き手に起きる現象が、この日の自分にはずっと続いていた。

 9月12日(土)

 1歳の娘と絵本読んだり、ウンチをしたおむつ換えたり、寝かせたりしながら、またいつものようにジャズ新譜の会資料をドタバタでつくるが、この日なんだかパソコンの調子がおかしくて、エクセルもワードもすぐにかたまる。プリンターつかおうとしてもかたまる。やばい。そんなこちらのてんぱった状態とか関係なく、娘はアンパンマンとか、いないいないばあのビデオを見せろとか要求してくるので、それに対応したりなだめすかしたりで準備がまずい状況。奥さんが昼過ぎに仕事から帰ってきても、パソコンは復旧しない。しかたがないので、会場のノートランクスでブログでアップした内容を印刷させてもらうことに。

 ジャズの新譜会の前に、ノートランクスを借りて、id:feelieさんと恒例の(っても2回目だが)、さしで音楽を聴く会。feelieさんはティム・バックリー、自分は昔聴いてたテクノのもろもろを持参。ちなみに前回は、fさんはじゃがたら、自分は友部正人。ティム・バックリーは初めて聴いたが、ほんと声がよい。曲もよい。CDを貸していただくことに。テクノは久々に聴いたがエイフェックス・ツイン(ポリゴン・ウィンドウ名義)とベーシック・チャンネルはやっぱきてるなあ、すごいなと思った。

 ジャズ新譜会は、毎回だが前半と後半に分かれる。あいだの休憩でお客様が持参されたものをかけていただくというスタイル。(プレイリストは9/12の日記をご参照ください。)

 反応はそれほどではなく感じたが、前半では個人的にはオーネットの59年音源が一番ジャズって感じました。まあ新譜(新録)では思いっきりないわけだが。この新譜会で自分は毎回いまのニューヨークの人たちのをかける率が高い。そのあたりはもちろん好きだからってのもあるが、それ以上に現在進行のリアルなジャズってなったとき、まっさきに思い浮かぶのがそのへんだからかけている。でもなんだろうか、前半の最後、オーネット・コールマンのアルト聴いた瞬間に、ああジャズ聴いてるなとしみじみ思ったのだ。なんか変な感覚だ。クリス・ポッターや、ベン・モンダーやカート・ローゼンウィンケルやマーク・ターナーやナシート・ウェイツ、ジェイソン・モラン、ロバート・グラスパーブラッド・メルドーを聴いて、「そうだこれが今のジャズだ!」と一方では盛り上がっているのに、昔のオーネットを聴いて「ああジャズ聴いてるな」と実感してしまう矛盾した心持ち。後半の古澤良治郎を聴いたときも、同じようにやはり「ああジャズだなあ」って思った。
 なんだろうか、これは。前日の松風クインテットを生で聴いたときにあらためてわき起こったジャズについての自身の感覚の再構築といったら大袈裟すぎるが。ただ、ナシート・ウェイツのアルバムでのジェイソン・モランのピアノを聴いてるときは、どちらにもいける「ジャズ」の感覚があるかなとも思ったりもした。

 まあいろんなものを聴いて行くしかないのだ、結局。

 後半の山場は、ラストの板橋文夫2連発。ひとつが「オーディオ・ベーシック」という雑誌の付録CD、もうひとつがライヴ会場限定発売のDVD。どちらも通常のCDショップで買えない。で、どちらもピアノソロ。映像はずるいかもしれないが、板橋さんの演奏はやはり見入ってしまうなー。いろんな出演者が参加するライヴのイベントで「結局、板橋さんが全部持ってちゃったねー」みたいなシチュエーションが、この日のジャズ新譜会でも起きてしまったというか。「渡良瀬」、「上を向いて歩こう」、「グッドバイ」と続けて観たが、心がぐらぐら動きっぱなしだった。板橋文夫よいなー。

 というわけで参加いただいた方、ノートランクス村上さん、皆さんありがとうございます。次は12月になります!