ここからは、昨夜のライヴの話。
 3月13日の夜、自分にとってはある意味、オーネットの来日コンサートよりも相当に楽しみにしていたライヴに行った。ピットインでの峰厚介(ts)・原田依幸(p)・古澤良治郎(ds)のトリオ、だ。
 かなり珍しいメンツ、というか原田依幸のこのところの活動状況を考えれば今回を逃したらまず聴けないだろうなという組み合わせ。(原田は基本的には、“月イチでアケタの店”というスタンスを最近まったく頑なに崩していないのだ。)
 峰〜古澤ラインは渋谷オーケストラを始めいろんなところで聴けるわけだが、原田絡み、特に峰と原田という組み合わせって、どうなんだろうこれまであったんだろうか?夢の競演なんて言うとあまりにも陳腐でありふれた形容だが、これほどまでに“このメンツが演るとどうなるのよ!?”と自分をワクワクさせる経験は久しぶり。その前提には当然、「ぜーったい、すごいことになるよ」という期待と確信があるわけだが。立ち位置はそれぞれ違っても、70年代から現在まで日本のジャズシーンを妥協することなく独自に歩んできた3人がぶつかりあう。間違いなく壮絶なものになるはず。
 立見も出たピットインの客席には、ミュージシャンの姿もちらほら。あ、渋谷毅もいるじゃん。
 20時10分過ぎ、古澤がフラッとステージに登場。一言も発しないままドラムセットの前に座り、おもむろにものすごいでかい音で叩き始める。いつのまにかステージに現れていた峰と原田もそれに合わせ、いきなりのハイテンションな演奏。ギミックなしのど真ん中の怒涛のフリージャズ、だ。自分の耳と目は食い入るようにステージに向かい、頭の中は高速でグルグル回転する。
 アケタの店に行けばいつでも聴けるよなあ(逆にアケタ以外ではほとんど聴けないわけだが)、なんて思って結局昨年は原田のライヴには行かなかった。そんな自分に激しく後悔した。原田のピアノ、すげえ。
 意味不明な言い方かもしれないが、原田の弾くピアノの音は磨耗していない。すり減っていない。この音の純粋さと質の高さを維持するためには、月一回のライヴが限度だよ。きれい事じゃなく、原田はマジにそう考えてるのかもしれない。そんなことを思ってしまうぐらい、彼のピアノの一音一音はびっくりするぐらい生きていた。語法としてはフリーなのかもしれないが、偏狭で形式的な美学とはかけ離れた、なんというかすごい音楽がここにある。馬鹿みたいだと承知で、あえて言う。いやあフリージャズってすごくかっこいい。フリージャズ最高。そんな感じ。
 圧倒されたまま約20分経過し、演奏が終了。鍵盤から手を離しそのまま原田がステージを降り、楽屋へ歩いていく。残された古澤と峰が少し「エッ?」とあっけに取られた様子で顔を見合わせたが、「あ、終わりね?」と確認しあい、ファーストセット終了。ええっ、早い!でもまあ、原田依幸ってこんな感じだもんないつも、そんなことを考えながら、休憩時間を過ごしていたら、ピットインのスタッフ3人がステージに上がって何やらセッティングを始めた。
 どうやら客で来ていたアルトサックス奏者の津上研太が、セカンドセットから演奏に加わるようだ。
(続く)