佐藤允彦&SAIFA

 仕事は8時半過ぎまで。帰り道途中のとんでんで夕飯。
 飲んで、ライヴ聴きに行って(火曜日・アケタの店渋谷毅&松風鉱一)、飲んで、飲んで、と、そんな今週。
 先週発売された佐藤允彦&SAIFA「ライブ・アット・メールス トリビュート・トゥ・富樫雅彦」をとにかく毎日聴いている。今年5月のドイツのメールス・フェスティバルでの実況録音盤。6管+リズムセクションの合計10人編成というコンボが演奏しているのは、富樫雅彦の楽曲。
ライブ・アット・メールス トリビュート・トゥ・富樫雅彦
 体の状態の悪化から現在は作曲に専念している富樫。その彼の音楽活動を全面的に支え続ける佐藤の、いわば“富樫プロジェクト”のひとつの集大成的な感触がこのディスクからは感じられる。一言で言えば、これは傑作だ。富樫あるいは佐藤の熱心なリスナーでは決してない自分の胸をも熱くさせ揺り動かす真摯さそして音楽世界の豊かさが、この作品には思いっきり詰まっている。
 ドイツ語?による紹介アナウンスの後の1曲目。冒頭から続く暗く不穏なムードが、佐藤の凄まじいドシャメシャフリー系のピアノによって蹴り破られる。まずそこでぶっ飛んだ。そのまま前のめりに突っ走りながら進む曲の後半で登場するのが、峰厚介のテナーによるこれまたすごいスピードでの咆哮。興奮する。
 佐藤允彦のHP上のコラムによれば、このビッグコンボ企画実現の前提条件のまず第一に、峰厚介の参加があったそうだ。佐藤曰く、富樫のフリージャズを再現できるのは峰しかいないのだということらしいが、その解説を聞かなくったって、実際の演奏に耳を傾ければ歴然としている。峰の存在感がほんと際立っている。
 富樫や佐藤や峰と世代はかなり離れているが、この作品での田村夏樹のトランペットも素晴らしい。田村自身のリーダー作などでの音と比べると、どこかストレートアヘッドな印象もある。だからこそか、この人のポテンシャルの高さがよく分かる演奏。奇をてらうことなく音によって空気を一瞬にして自分の方に持ってくる様は、ああ真性のジャズの人なんだなと再認識。
 このディスクに収録されている富樫の楽曲そのものは、フリー系の曲もあれば、ディキシー風の曲もあり、また美メロとも言えるバラードもありという、意外な軽やかさがある。しかし演奏全体のトーンは、硬質で重くて激しいど真ん中のフリージャズ。70年代の崇高なフリージャズがステージに降りてきたような圧倒感と自由さがある。
 個人的なベストは、ラストの「Waltz Step」。テーマでは牧歌的で感傷的なメロディをサーカス楽団のようにバンドが奏で、その後は怒涛のフリー展開、最後はまたテーマに戻り大団円。「ほんとにいいジャズは、人間的で分かりやすい」という明田川荘之の言葉を思い出した。