来るのは初めての高円寺20000Vというライヴハウス。入店した途端、爆音のノイズが耳をつんざく。ステージ上で若い男性が見つめているのはラップトップかな、よくあるっちゃあよくあるメルツバウ系というかなんというか。耳ではなく、体で音を受け止めていると、これはこれである種の気持ちよさがあるなあと思った。ブルブル震えて。だが後半にもう一人のメンバーが出てきてフロアーで飛び跳ねたりしだしたところで、正直興醒め。急に目の前の音が説明的に映ってしまう。踊りも笑えなかった。甲本ヒロトジョニー・ロットンといった本物のパンクは、動きだけでこちらを大笑いさせてくれるじゃん。
 さて続いていよいよお目当ての、田村夏樹カルテットの登場。メンバーは田村(tp)、藤井郷子(p)、加藤崇之(g)、古澤良治郎(ds)。ロック系ライヴハウス、対バン6つ(おそらく田村グループ以外は年齢の若いロック系・ノイズ系)、そんないつもとは趣きがだいぶ違うシチュエーションだが、何より違うのはこの日の彼らの音楽スタイル。なんとリヴァーヴやディレイ全開のエレクトリック仕様だ。
 加藤、古澤、藤井のエレクトリック的なものというのは、なんとなく想定内と言えないこともない。だが、田村夏樹のエレクトリック・トランペット、これはインパクトがあった。グニャリッ!と空間を捻じ曲げる異物感は突出しているが、どこか牧歌的な匂いもある音。
 例えば70年代のマイルスや日野皓正を王道だとしたら、この人の音はその道とはすれ違いも交差もしない。むしろ、醒めながら一定の距離を常にとっている、そんなふうにも思える。極めて意識的にブルーズを排除しているが、難解さを目的化した前衛には決して陥らないというスタンスがおもしろい。変な軽快なポップさがあるし。
 その変なポップ感って、この日のグループの出した音そのものにもあてはまることだ。グルーヴに身を任せているようでそうでもない、ストレートなロック的カタルシスがあるようでそうでもない、だけど妙なパワーとバンドマジックがあるところが刺激的。