その後向かった先は、新宿ピットイン。連休のしかもこんなに快晴の日中に、地下ジャズライヴハウスっつうのも我ながらどうかとは思う。
 ステージ昼の部は田中信正(p)ソロ。このミュージシャンの演奏を生で聴くのは僕は初めて。定刻14:30から約20分遅れでステージが始まる。2ステージ合わせて1時間半ぐらいの演奏。演奏前に必ず曲の紹介があるのだが、なんだか人の良さそうな雰囲気が伝わるMCで客席からは笑いがこぼれていた。全11曲かな?覚えてる限りで曲名を書くと、

【1セット】
①Off Minor②クラーク③雨④Well You Needn't⑤Scariet Cord
【2セット】
⑥My Favorite Things⑦枯葉⑧Sunny⑨Billie's Bounce⑩Requiem
【アンコール】
⑪Misty


 だったと思う。4曲が自作でそれ以外はスタンダードの選曲。③⑩などのオリジナルのバラードは泥臭さもなく、きれいな感じ。しかし、それ以外の楽曲での演奏はかなり硬質で個性的。
 冒頭セロニアス・モンクの曲①で、正直驚いた。森山威男グループの現ピアニストということで、CD音源を聴くかぎりはかなりフリー寄りの演奏もする人、という予備知識があるにはあった。しかし、フリージャズ的異物感のオーラともいうべきものが、CDで聴くより何倍もビシビシと音から伝わってくるのだ。それは表面上のアヴァンギャルドということではなく、モンク〜セシル・テイラー的な音の解体・再構築のダイナミズムを彼のピアノは体現しているということ。
 優れたジャズ・ミュージシャンのインプロヴィゼーションを聴いていると、ある一点で時間が止まりそこからその点の奥にある深い空間を掘っていく作業を自分がしているように思えるときがある。意味不明かもしれないが、自分にとってのジャズ的快楽とはそれだ。この日の田中信正の演奏を聴いてそのことをほんとによく考えた。
 特に有名なブルース⑨なんて、曲の原型すらないのだが、そこで展開される世界はまさにそのジャズ的快楽。情緒や情念というよりは、非常に「論理」のピアノという印象もあり、だからかもしれないが、なぜか林栄一の演奏を思い出したりもした。
 間違いなく、自分の2005年ベストのひとつに入るライヴ。