さてこの前の日曜日の夜、2月6日、横浜のドルフィーにライヴを聴きに行った。板橋文夫友部正人のステージ、約1年ぶりの2人の共演。まずはセットリスト。

1セット
①何も思いつかないときの歌 ②愛はぼくのとっておきの色 ③愛について ④月の光 ⑤水門 ⑥羽根をむしられたニワトリが ⑦君はこんな言い方嫌かも知れないけど
2セット
⑧〜詩の朗読とピアノ〜 「銀の汽笛」「奇跡の果実」 ⑨私の踊り子 ⑩スピーク・ジャパニーズ・アメリカン ⑪遠来 ⑫38万キロ ⑬夕暮れ ⑭おやすみ12月 ⑮夜になると 
アンコール
⑯夕日は昇る ⑰フォー・ユー

1年前ドルフィーでやったときは、あいだに友部さんのソロや板橋さんのソロが何曲か入ったんだけど、今年は全編2人で。また⑬からはお客さんとして会場に来ていたカセットコンロス安藤健二郎さんがクラリネットで参加。
アンコールと詩の朗読も含め17曲中7曲は昨年も演奏された曲だったが、残りは全てこの日初披露だと思われる。⑰「フォー・ユー」以外は友部さんの曲で、まあ友さんの曲はほとんどシンプルなコード進行なんで、楽曲のアレンジ云々というよりは、その場でぶっつけ的に板橋さんが音を合わせるという感じに見受けられた。実際、友部さんの演奏はいつもの弾き語りのときとほとんど変化はない。


昨年出た友部アルバムの1曲目に収録された①で始まったステージ。凛とした印象のこの曲、板橋さんのピアノは最初は音を短く切りながら、徐々に音数を増やしていき、最後はグワーッと盛り上がる。もうこの時点で「去年と同じかなあ、内容」なんてネガティヴな予想をしていた僕の思い込みが打ち砕かれた。「ブルースを発車させよーうぜー!」というサビが燃える②で、早くも板橋さん、中腰で鍵盤を思いっきり殴りはじめる。「風邪ひいてるんだよねえ」なんてMCでぼやいていたけど、いやあ元気。
友部ライヴでは何度も歌われている③や⑤がいつも以上の高鳴りを持って聴こえたのは、無骨でセンチメンタルな板橋ピアノがそこにあるからで、友部さんのざらついて低いがとても深い声がすごく映えるのだ。相性がいい。昨年のデュオ・ステージで僕が最も印象に残ったアフリカ的・ブルース的なリズムがとにかく扇動的な⑦で1セットめは終了。1時間、ほんとあっという間。


休憩30分ほど挟んで2ステージめがはじまったころチラッと周りを見渡すと、客席はほぼ満員。


友部さんの詩の朗読に板橋さんが即興で音をつけるパフォーマンス⑧で2セットめはスタート。ここでの板橋さんのピアノはメロディを奏でるというよりは、それこそ映画の効果音に近いかなり抽象的な音だった。「ほとんど朗読の延長のような曲なんですが・・・」と友部さんが喋って始めた⑨。昨年とは違ってほぼ原曲どおりの優しい旋律のリフを板橋さんが弾く。それでも微妙に友部さんのギターのアルペジオとずらしながら弾くのが、すごく味があって良い。


で、この日の僕にとってのベストが⑩。どこの国に行っても英語で話そうとするところに象徴されるアメリカ人の傲慢さというか子供っぽさ、またそれを受け入れ逆にアメリカ文化万歳ともてはやす日本人。そういったことをユーモアたっぷりに皮肉る内容の歌詞。テンポが速くポップで明るい曲調に板橋さんの豪腕ピアノがはまるのだ。「プリーズ・スピーク・ジャパニーズ!」いいっすね。⑪は友部さんおなじみの名曲。「こんなにたくさんの人が生きているのにという、そんな悔しさにおそわれたことはないかい?」熱い言葉を板橋ピアノが暖かく包む。「なんだか、すごくあでやかですね」とはこの曲の直後に友部さんがボソッとつぶやいた言葉。


⑫で再び⑦的展開。昨年はこの辺りの演奏にインパクトがあって、もちろん今年もうわすげえやなんて思ったんだけど、それ以外での両者の噛み合い具合がむしろ今回は印象的だったかもしれない。それは⑬以降のクラリネットの安藤さんが入ってから特にそう思って、新曲⑭やディキシー風の⑮の楽しさを体験すると、なんだか今後の新たな展開もあるんでは?とも思えてしまう。
アンコール⑯でのサビ「こーんど、君にーいつ会ーえるぅー」を板橋さんのピアノをバックに、客席も含め会場全体で歌ったときの、なんだか静かで優しい雰囲気は少し泣きそうになった。最後は昨年と同じで、友部さんのハーモニカがあのメロディを吹く「フォー・ユー」。


予想以上にやるなあ、55歳コンビ。リアル・ジャズの勘を取り戻しに行こうとしている先週の片山広明の凄みもそうだし、この世代のエネルギー、なんだかあなどれない。