もうけっこう前の話題、先週の土曜日、新宿ピットインで清水くるみさんのZEKオーケストラのライヴを聴いた。今年5月に西荻窪アケタの店で衝撃のデビューを果たした、レッド・ツェッペリンの曲をジャズのフォーマットで演奏するという力技のコンセプトのビッグ・コンボ。まずはパーソネル。清水くるみ(P、楽団長) 片山広明(Ts) 林 栄一(As) 松本健一(Ts) 渡辺隆雄(Tp) 上村勝正(B) 本田珠也(Ds)。んで、曲目↓。

曲目
1セット:①We’re Gonna Groove②KashmirHots On For Nowhere④D'yer Mak'er⑤Dazed and confused
2セット:⑥不明(Ten years goneじゃないよなあ?)⑦Gallows pole ⑧Tea Is For One⑨分からない⑩How many more times
アンコール:⑪Rock 'n' roll

①は多分この曲のはず。テーマではメインのメロディラインを林栄一のアルトが吹き、フロントの他の3人がバックにまわる。それで聴き手を煽って煽って、その後は各自のソロに突入するというZEKオーケストラのひとつの黄金パターンが展開される。アンコール⑪もこのパターンだったと思う。
フロント陣だが、ステージ中央に立つ林・片山の両巨匠の存在感は当然ながらなにものにも変え難いものだとしても、若手チームの音も全然見劣りせずかっこいい。②ではロバート・プラントのボーカル部分にあたる旋律を吹く渡辺さんのトランペットがとても印象的で、曲に独特の妖しさを与えていた。他の曲でもけっこうおもしろい、この人のトランペットのトーン。そして松本さんのバリトン、やっぱ最高。⑤での中盤から後半のフリーごった煮状態のときだったか、あるいは別の曲のときだったかちょっと記憶が定かではないが、松本さんのソロが始まったとたん、空気が一変した瞬間があった。他の音が一瞬吹っ飛んだという表現がぴったりのアナーキーで初期衝動的でバカでかい音の出かた。興奮する。
一方、巨匠チーム・林さんと片山さんに関して言えば、2セット⑧が見せ場ということになるだろうか。おもーく泥臭ーいブルースで、両者のソロが爆発。こういうタイプの曲での片山さんのテナーの特にコッテリ面でのはまり具合は見事で、サックスを吹く顔の表情の効果も含めて、胸が熱くなった。
2セットめ1曲目⑥では、ピアノ・トリオでの演奏をじっくり聴かせてくれた。くるみさんのピアノに自分の耳と心をググッと引き寄せられ、その動きを追っていくうちに生まれるえも言われぬ恍惚感。自分の時間感覚がその演奏によって緩やかになったり急なものになったりと変化する。5月のアケタに比べると、オーケストラの中でのくるみさんのピアノの音(音量)が大きく聴こえたこともよかった。リズム隊の上村さん、そして本田ボンゾ珠也さんの音、トリオでも一度じっくり聴いてみたい。すごく引き締まった?ストイックな音を出してるなあとトリオを聴きながら思った。
さて、なんだかとっ散らかったことばかり書いているが、ここから先は一番書きたかったことで、この日個人的に最も興奮したのが1セットの④。ZEPのアルバム「聖なる館」って変な曲が多くて僕は好きなんだが、この曲はそのアルバムの中でもポップなレゲエというツェッペリン的にも相当な珍曲。そういう曲をZEKがやるというのだから事情はややこしい、というか刺激がないわけがない。奇妙に解放的でファンキーな雰囲気のなか、そしてソリストにとっては一筋縄でいかない状況のなか、探り感を伴った林さんや松本さんの挑んだソロがとても素晴らしかった。選曲・アレンジ・演奏において、この曲はこの日最も印象深かった、あるいはZEKオーケストラのこれからの可能性として特筆すべきものではないかと、妄想的に思った。