さて先週土曜に行ったライブについて書きたい。高円寺ジロキチでのギタリスト酒井泰三のトリオ「轟音」のステージ。早川岳晴(b)、湊雅史(dr)と泰三氏という組み合わせ。僕としては待望というか、今年一月以来の酒井泰三のライブだ。
そもそもが去年の6月、ヴァイオリニスト太田恵資と彼のデュオを西荻で初めて目撃して以来、僕は酒井泰三氏のギターの虜になってしまったと言ってもいいと思う。めちゃくちゃ音でかくてノイズもギギギギギョギョギョなんだが、グルーヴィーな演奏に、あのときはとにかく熱くさせられた。マイルスの「ジャック・ジョンソン」におけるジョン・マクラフィン、あるいは後期のジミヘン、そんな強烈なファーストインパクト。へえこんな人いるんだ、すげえな!みたいな。その後、エレクトリックノマドという彼のメインのバンドのライブに2度行って、またCDを聴き僕が認識したのが、音の「鳴り」についての泰三氏のその明確な方向性である。

俺の理想とする、あくまでブ太く伸びまくり、ガシッとしたままで頭打ちにならない天井知らずの伸びが、そこにあるかもしれないディストーションのサスティーンは、当然機械に左右されるが、もっと重要なのが実は「自分の指」だった。それとイメージ!イメージが無ければ、機械に支配される。自分のイメージが強くなければ機械を、ギターを、音を支配は出来ない。

上記は泰三氏のHPにおける日記からの抜粋。ギター弾きでもない自分にとっては、サスティーンってなに?という世界ではあるが、彼がここで書くところの「理想」の音にものすごく自分の肉体が反応・共感していることは厳然たる事実だ。
特にこの夜のトリオでの彼のギターを聴いて、その音が自分の体内にもたらす効果は特別のものだった。具体的に述べると、低音域と中音域の歪みが、泰三氏のギターの場合、そりゃあ並外れてハードなんだけど、同時にまろやかで優しいのだ。何かこちらの脳の硬直をゆっくりとほぐしてくれる効果がある、癒しというか。それに加えてものすごく抜けがいいんで、やたらとスカッとする。深くて気持ちいい爆音?とでも言えるだろうか。
そしてもうひとつ、これは共演の早川氏・湊氏との3人によって生み出されたまさに「轟音」についてだが、聴こえ方ももちろんかっこいいんだが、3つの楽器から発せられる振動が、ギシギシビリビリとこちらの全身にダイレクトに降り注がれたときのその感覚が気持ちいい。この日のステージは、オリジナルに加えボブ・マーリーやジミヘンのカバー、それと沖縄民謡のような旋律を持った曲と、意外に幅広いタイプの楽曲が演奏されていたが、今述べたような轟音・爆音・振動・抜けのよさ・まろやかさが、とてもいい感じで溶け込みあっていた。特にファースト・ステージのラストの「スナカゼ」はあらためておもしろい曲だなと思った。
以前も書いたが、酒井泰三というアーティストがギターを通じて追求しているテーマは、「エレクトリックと音楽と人間」である。なんかそんな表現をするとまるでテクノのようだが、あながちそれは外れていないと思う。その「鳴りこそが全て、グルーヴこそが全て」というテクノ的価値観は、泰三氏のギターの魅力にはまった人間なら、ばっちり体に染みこんでいるものではないだろうか。特に最近になって彼が連続して立ち上げた新プロジェクト、DJとの融合やツインドラムといったコンセプトはそのラインで考えるととても興味深い。残念ながら僕はいずれもまだ未聴なのだが、早く経験してみたいと思っている。